都々逸と作詩

都々逸の学びと創作を中心に作詩関連や雑記、散歩写真など。

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不要品の買い取り(雑記)

公衆電話

自宅にいるとセールスやら買取の電話がくる。

問題は極度の睡眠不足でまともな思考ができない時だ。つい相手に余計なことを言ったり、つまらない冗談を飛ばしたり、思いついたことを早口で捲し立てたりしてしまう。

きっと向こうの電話番号リストの私のところには「こいつバカ」などと書き込まれているに違いない。

 

自宅にかかってっくる電話は、セールスよりも買い取りをしている業者の方が多い。

「使わなくなったカメラやゴルフ用品、お召しにならなくなったお洋服はございませんでしょうか?」
などと言って、不要品の売却を求めてくるのだ。

実際にはもっとずっと長い話しをいきなりしてくる。
自社についての簡単な紹介から始まり、買い取りしたい物品の種類をたくさん挙げてくる。

 

その話し方はだいたいゆっくりである。
相手に分かりやすく伝えるため「ゆっくり話すよう」教育されているのだろう。

人にもよるが、おそらくこの仕事の経験が浅い人ほど、教えを忠実に守ってゆっくり話すのだろうと思う。

 

だが、そのゆっくりした話し方に、こっちは却ってイラついてしまう。

 

いや、言いわけをしておくと、私だって何も普段からこの程度のことでイラついてしまうわけではない。
しかし、極度の寝不足状態にあって懸命に睡魔と戦っている真っ最中であり、かつ、睡眠不足でまともに物事を考えられない状態になっているのだ。
それに、そもそも興味のない買い取り話しをされているのである。

 

買い取り業者が言おうとしていることのすべては、話しの途中でだいたい分かる。そのため、分かりきったことを長々ゆっくり、くどくど説明しているように聞こえてしまうのである。
そこで辛抱できず、ついには耐えきれなくなり、相手の話しを途中で遮って私は喋り始めてしまったりするのである。

 

たとえば、

「そうそう、パソコンがあるんですよ、パソコンを買い取って欲しいですね、壊れてますよ、ああでも、内蔵ハードディスクのデータを復元できないようにキッチリ消去しないといけませんね、やってくれますかね、そういう、何というか、セキュリティの、その機密情報みたいなのを守るデータ消去を、でもあれかな、パソコンとかの専門業者じゃないでしょうから無理ですかね、じゃあこっちで自分で消去してから売らないといけないのかな、でも時間がかかるし、消去するには起動させないとならないんですけど、そもそも壊れてるんで普通のやり方では起動しないんですよ、別のパソコンに繋げてね、そこからハードディスクにアクセスして、なかなかね、そこんところが面倒でね、なので、やっぱりいいです、やめておきましょう」

などといったことを、もの凄い早口で捲し立てるように喋ったりしてしまうのである。

 

私が話し終えると買い取り業者は、

「すみません、もう一度お願いできますか、早くて聞き取れなかったもので……」

などと言ってくる。

しかし私は同じことを繰り返し言うもの面倒なので、

「ああ、いいんですよ、やっぱり。無理でしょうからね」

で済ませる。

 

するとだいたい相手は、手元にあるマニュアルに沿って話しを進めようとするのだろう。次にはこんなことを言ってくる。

「それでは、古いテレホンカードや使わない切手などはありませんでしょうか」

おそらくマニュアルの次項目にそう書いてあるのではないだろうか。一般的な物品の次に、金券ショップで扱うようなものに話の対象を移すのである。

 

しかし、寝不足でまともな思考力のない私は、なぜか「テレホンカード」という言葉に妙な反応をしてしまい、急にこんな話しを始めてしまう。

「テレホンカードって、ああ公衆電話で使うやつね、もう公衆電話ってめっきり見ないじゃないですか、携帯電話、スマホの普及でね、公衆電話ってどこにあるんでしょう、どこに残ってるんでしょうかね、ある所にはあるんでしょうけど、知ってますか」

 

「いゃ、あのう、それ…」

 

「いやいやそれがね、この間ね、見つけちゃったんですよ公衆電話を、どこにあったと思いますか、上野公園ですよ、東京の台東区の上野公園ですよ、上野公園と同じ名称の公園が全国にはあるかもしれないので一応ことわっておきますけど、東京の台東区の上野公園ですよ、でも誰が使うんでしょうね、公園で公衆電話、皆んなスマホとか持ってるでしょうにね、ああ、あれか、災害用ですかね、災害で避難した時とかに使う想定なのかな、知らないですけどね、なんとなくですけど上野公園って災害の時の避難場所になってるような感じするじゃないですか、ああ、つまりこういうことですよ、公衆電話があればスマホのバッテリーが切れても緊急連絡できるとか、そういうことなんですけど、どうなんですかね」

 

そんなことを思いつくまま、言葉も選ばず、言いたいことの整理もしないで、相変わらずの早口で私は喋りまくる。

 

すると、この辺りで大概の人は面倒になってくるのか、相手をしていても時間の無駄だと気づくのだろう。

「本日はお忙しいところお電話をして申し訳ありませんでした。また何かご不要品などございましたらよろしくお願いします」

みたいな締めくくりで電話を終えようとする。

そうなれば、もちろん私も、

「はい、どうも」

くらいの言葉は言ってから、すぐに電話を切る。

 

だが、さらに、

「では、その他に何か不要なものはございませんでしょうか」

 と、聞いてくる人もいた。

きっとマニュアルには「最後にそう聞け」と、書いていあるのだろう。生真面目なのかどうかわからないが、マニュアルを最後まで忠実に守り抜いているのだろう。

 

そうなると、仕方ない、もうこんなやり取りになるしかない。

「自分かな」

「ええ、何でしょうか」

「自分自身、つまり私ですよ、世の中に不要なのものは、どうせそうなんだよね」

「……えっ、ああ、えー、いいえ、どうも本日はすみませんでした」

これでやっと電話を切ってくれた。

 

もちろん私は反省している。こんなバカな対応をしてしまったことを、心の底から申し訳ないと思っている。

繰り返し言いわけさせていただくが、寝不足でまともに物事に対応できない状態になっていたのである。

 

誠に勝手なお願いではあるが、そこのところは何卒ご理解賜り、寛大な心でお許しいただきたい。